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福島地方裁判所 昭和50年(行ウ)10号 判決

原告 平泉智隆

被告 濱名忠雄

主文

1  原告の請求のうち、被告に対し、福島県相馬市に六〇九万五、〇〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一〇月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払うことを求める部分を却下する。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、福島県相馬市に対し、一、三〇五万二、〇〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一〇月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言。

二1  本案前の申立

(一) 主文第1項と同旨。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 予備的に

保証を条件とする仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(当事者)

原告は福島県相馬市の住民で、昭和五〇年七月二五日後記補助金の支出につき、地方自治法二四二条の監査請求をしたもの、被告は同市長の職にあつて同市の事務を管理執行するものである。

2(補助金の支出)

被告は、相馬市長として、社会福祉法人相馬市社会福祉協議会(以下訴外協議会という。)に対し、昭和四八年中に三九七万円、昭和四九年中に四一四万九、〇〇〇円、昭和五〇年中に四九三万三、〇〇〇円(合計一、三〇五万二、〇〇〇円)の補助金を交付した。

3(被告の責任)

被告の右補助金交付決定には次のとおり違法がある。即ち、

(一)  訴外協議会は、基本財産の額(定期預金二〇万円のみ)および運営の実態からみると社会福祉事業法二四条の要件を充たさず補助を受くべき適格を有しないから、右の決定は公益上の必要性を欠き地方自治法二三二条の二に違反する。

(二)  次に、地方公共団体が社会福祉法人に対し補助金を支出するには、社会福祉事業法五六条一項所定の条例に基づかなければならないところ、相馬市には右の条例が制定されていないので、右補助金交付決定は同法五六条一項に違反する。

4(損害)

相馬市は、被告の前記補助金支出により一、三〇五万二、〇〇〇円の損害を被つた。

よつて、原告は地方自治法二四二条の二の規定により相馬市に代位して、被告に対し一、三〇五万二、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五〇年一〇月二三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二1  本案前の申立の理由

相馬市は訴外協議会に対し、別表記載のとおり補助金を交付したところ、昭和五〇年七月二五日原告から監査請求がなされた。

従つて、原告の右監査請求は、別表記載1ないし4の補助金支出に関する限り地方自治法二四二条二項所定の期間を徒過していることになるから、当該部分に関する原告の訴えは却下されるべきである。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実のうち被告がなした補助金の支出は別表記載3ないし8の限度においてこれを認め、その余の事実は否認する。

(三)(1) 同3、(一)の事実は否認する。

(2) 同(二)の事実のうち、原告主張の条例が昭和五〇年九月三〇日まで制定されなかつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 同4の事実は否認する。

三  本案前の申立に対する主張

本件監査請求は、次のとおり適法になされたものである。

(一)  補助金の支出は、当該会計年度中予算による拘束を受けるから、その会計年度末である翌年三月三一日をもつて地方自治法二四二条二項にいわゆる「行為の終つた日」となすべきである。

そうすると、別表記載4の補助金支出に関する監査請求は、行為の終つた時より一年以内になされたものということができる。

(二)  予算に基づく支出行為の有無及び内容は、議会における決算の承認を通じて公表され、初めて住民一般が了知できるものであるところ、本件の補助金支出は昭和五〇年六月開催の市議会に報告された。

従つて、本件の補助金支出に関する監査請求は、期間経過につき正当な理由がある。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2について

成立に争いのない甲第二号証、乙第一〇号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一、第二号証の各一、二、四、第三号証の一、三(訴外協議会作成部分を除く)、四、六、第四号証、第五号証の一、三(訴外協議会作成部分を除く)、四、六、八、第六号証の一、三(訴外協議会作成部分を除く)、四、六、第七号証の一、三、四、六、第八号証の一ないし四、六(訴外協議会作成部分を除く)、八、被告本人尋問の結果、同供述によつて成立の認められる乙第三号証の二、三(訴外協議会作成部分)、五、第五号証の二、三(訴外協議会作成部分)、五、七、第六号証の二、三(訴外協議会作成部分)、五、第七号証の二、五、第八号証の六(訴外協議会作成部分)、七によると、相馬市は訴外協議会に対し、予算に基づいて別表記載のとおり補助金の交付決定及びその交付をなし、このうち被告が市長として関与したのは別表記載3ないし8の補助金であること(但し別表記載3ないし8の限度では争いがない。)が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  本案前の申立について

1  別表記載1ないし4の補助金支出に関する監査請求が、各支出行為がなされた時から一年以上経過した後になされていることは前記の事実から明らかである。

2  ところで、原告は、公金支出行為は当該会計年度の間、継続して予算に拘束されるから、その会計年度末をもつて、地方自治法二四二条二項にいわゆる「当該支出行為の終つた日」となすべき旨主張する。

しかしながら、公金支出行為が予算にもとづくものであるか否かにより、監査請求期間の起算点を異にすべき理由は見出し難いから、原告の主張は採用できない。

3  更に、原告は監査請求期間の徒過につき同法二四二条二項にいわゆる正当な理由がある旨主張するが、右の正当な理由とは、同条一項の行為が秘密裡に行なわれたため、住民が当該行為のあつたことを監査請求期間内に知ることができないとか、或いは交通機関の途絶等により期間を遵守できなかつたとかの事情を指すと解すべきところ、別表記載1ないし4の各補助金交付は、予算にもとづいてなされたものであることは、前記認定のとおりであり、右事実をも合わせ考えると、原告主張の事情だけからは直ちに正当な理由を見出し難いといわなければならない。

4  そうすると、本件訴えは、別表記載1ないし4の補助金支出に関する部分につき、訴訟要件を具備していないことになるから却下を免れない。

四  被告の責任について

1  請求の原因の3の(一)の主張については、これを肯認するに足りる証拠はない。

2  請求の原因の3の(二)の主張事実のうち、相馬市において、別表記載5ないし7の各補助金交付当時、社会福祉事業法五六条一項所定の条例が制定されていなかつたことは、当事者間に争いがない。なお、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第九号証の四によれば、昭和五〇年九月三〇日社会福祉事業法五六条一項に基づく条例(相馬市条例第一五号社会福祉法人に対する助成の手続に関する条例)が公布、施行され、別表記載8の補助金交付決定は、右条例にもとづいてなされたことが認められ右認定に反する証拠はない。

3  そこで、被告の別表記載5ないし7の各補助金交付決定が違法か否かにつき判断する。

社会福祉事業法五六条の法意は、公の助成をした社会福祉法人に対しては、一般の社会福祉法人に比較して特別に強い監督をすることができるという建前をとることによつて憲法八九条との低触をさけつつ、社会福祉法人に対する公の助成をはかつたものであり、同条一項は同条所定の条例を制定し、同条例にしたがつてのみ助成でき、それ以外の助成を禁止しているものではなく、むしろ助成申請の審査の便宜ないし手続の明確化のため、申請書の記載事項、添付書類等助成の手続に必要な事項を条例で定めるべき旨規定したにすぎないものと解すべきであるから、任意規定にすぎず、かかる条例の不存在をもつて、ただちに補助金交付決定が違法となるものではない。

そうすると、本件の補助金交付決定は社会福祉事業法五六条の趣旨に反するものとはいい難く、この点に関する原告の主張は理由がない。

五  よつて、原告の請求のうち、別表記載1ないし4の補助金支出にかかる損害賠償請求に関する訴えは、不適法なものとして却下し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判断する。

(裁判官 佐藤貞二 石井義明 金野俊男)

別紙〈省略〉

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